文部省 唱歌

  道をはさんで畑一面に

  麥は穗が出る菜は花盛り

   眠る蝶々飛び立つひばり

   吹くや春風 たもとも輕く

  あちらこちらに桑つむ少女

    日まし日ましにはるごも太る



  ならぶ菅笠 涼しいこゑで

  歌ひながらに植行く早苗

   ながい夏の日いつしか暮れて

   植ゑる手先に月かげ動く

  かへる道道あと見かへれば

    葉末葉末に夜つゆが光る



  二百十日も事なくすんで

  村の祭の太鼓がひびく

   稲は実がいる日和はつづく

   刈つて ひろげて 日に乾かして

  もみに仕上げて俵につめて

    家内そろつて笑顔に笑顔



  そだを折りたくゐろりの側で

  夜はよもやま話がはずむ

   母がてぎはの大根膾

   これもゐなかの年こしざかな

  棚の餅ひく鼠の音も

    更けて軒端に雪降積る